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緑色の風23 

緑色の風23


真行寺が、急いで玄関へ行ってみると…。明日、山菜採りをしようと約束をした海野のお爺さんが立っていた。

「あ!海野さん、こんちわっす!」

「こんちわ、雨よく降るなぁ」

「そうっすね」

外から聞こえてくる、雨音…。

「明日のことを相談しに来たんじゃがの…」

海野が言い掛けた時、三洲もひょっこりと顔を出した。

「海野さん、こんにちわ。立ち話も何ですから…上がって下さい。お茶、淹れますから」

「おぉ、そりゃぁ、悪いのぉ…」

「いえいえ、構いませんよ。どうぞ」

三洲はニッコリと笑い、この雨の中をわざわざ訪ねてくれた海野を招き入れた。三洲はそのまま台所へ行き、お茶の準備を始めた。真行寺は海野を居間へ通し、テーブルを挟んで向かい合わせに座る。

「明日、何時頃行きます?」

「そうだなぁ…。朝早く行くのも気持ち良いけど。君らは、いつも何時に起きるんじゃ?ワシらはの、お天道さんが出る前に、大概目が覚めちまうけんのぉ?年寄りはな、朝が早いだよ。寝るのも早いけどな、あははははっ」

「マジ、早いっすね!?俺達は、6時か、7時頃かな…。山菜採りは初めてなんで、海野さんにお任せするっすよ」

「そうか?そいなら、9時頃にするか?朝早過ぎても、君らも大変だろうし。それくらいの時間なら、頭も起きてるじゃろ?」

「そうっすね!あ。俺、弁当作ってくんで、一緒に食べましょ!?」

「ほぉ、そりゃ、有難いなぁ」

「明日はお世話になるんで。それくらいしか出来ないっすけど…」

そこまで会話した所で、三洲が三人分のお茶を運んできた。

「海野さん、お茶をどうぞ」

「あぁ、ありがとう。わざわざ、すまんのぉ…」

「いいえ、ゆっくりしていって下さい」

「ねぇ、アラタさん?明日ね、9時出発になったから。俺、三人分の弁当、張り切って作るからさっ

真行寺は、とても嬉しそうだ。

「何か、お前…遠足にでも行くみたいだな?ふふっ」

「だって~、山登りなんてウン十年振りだよ!?それに、山菜採りだしワクワクしちゃうな~♪」

「兄ちゃん、上手いこと言うだな?まぁ、遠足みたいなもんだけんなぁ…あははっ」

「コイツ、いつまで経っても子供みたいで…。きっと、今夜は眠れないと思いますよ?はははっ」

幼い頃、遠足の前の晩…。翌日の遠足が楽しみでワクワクし過ぎて、終いには目が冴えてしまい眠れなかった、遠い日の思い出。きっと、誰もが通ってくる道なのだ…。

「あ。また子供扱いしたっ!」

「だって、子供だろ?ふふっ」

「むぅぅぅぅぅっ!」

真行寺が口を尖らせると、海野が顔をしわくちゃにして笑った。

「あははっ!80を過ぎたワシらから見りゃぁ、二人ともまだまだ充分に子供だぞ?」

海野の言葉に、三洲は言葉を返さずにいると、真行寺は何だか嬉しそうに、ニヤニヤしていた。いつも自分ばかりが子供だと言われる所為もあって。勿論、三洲は素敵な大人の男性なのだけど逆に子供っぽい所なんて、探す方が大変だと思う…。

だけども、だ・け・ど

普段、こんなお爺ちゃんと接する機会も、当然!少ないのであって。いつも自分より大人に見える三洲が、子供扱いされたことで不謹慎にも!嬉しくなってしまった真行寺である。子供扱いしても許されるのは、世のお年寄りと、三洲の親族だけ…。自分がもし、ウッカリ言ってしまったとすれば…。間違いなく、三洲の逆鱗に触れて、殺されてしまうのだろう…トホホ。

「何ニヤニヤしてるんだ?真行寺」

「えっ!?な、何でもないよ…へへへっ

「…変なヤツ」

「それにしても、君ら…嫁っ子はまだ貰わねぇだか?」

孫を持つ“お爺ちゃん”の海野としては、若い二人の行く末が、とても気になった。

「お嫁さんっすか!?…ふふっ

「ニヤニヤしてるとこを見ると、東京にいるんじゃろ?二人とも、良い若い衆だでなぁ…あははっ」

真行寺の心の中と言えば…。“俺のお嫁さんは、アラタさん”なのだが、流石に“隣にいる人です!”とは言えない…。

「いるっすよすっげ、綺麗な人なんすうふふ

そう言って、三洲をチラリと見ると、全く動じるでもなく、得意のポーカーフェイスをキメている…。

「えぇなぁ。別嬪さんか~。ウチの女房も、今じゃ婆さんだけど、若いこらぁエェ女だったけんな~、あははっ」

「でも、素敵なことですよね?結婚してから、ずっと一緒に暮らしてきたんでしょう?」

そう言ったのは、三洲。

「そうだよ、もうかれこれ…60年くらいになるかなぁ?女房には色々、苦労掛けちまったけど…文句ひとつ言わず、黙ってワシに付いてきてくれたよ。君らも、色々と理解のある嫁さんを見つけにゃぁな?あははっ」

経験豊富な、人生の大先輩の言うことは、きっと間違いはない。

「…そうですね、頑張ります」

三洲は、にっこりと笑い、表向きはそう応えて海野の言葉を、心に刻む…。

「そうだ。明日は、汚れても良い格好の方が良いぞ?場所に寄っちゃぁな、ボサボサした所もあるで、どっちかって言やぁ…半袖より長袖を着てった方が良いな。あとは、手袋とタオルな。山登ると汗だくになるし、山菜のヤニで指先が黒くなっちまうからよ」

「流石ですね、参考になります」

「都会のこたぁな、何も分からんけども、山や畑のことは分かるぞ?あははははっ」

「ねぇ、アラタさん?手袋買って来なきゃないよ?後で買いに行く?」

想定外の山菜採り。山菜のヤニが付くことも知らなかったし。畑の野菜は素手でも、へっちゃらだけど…。

「そうだな、買いに行くか」

「ああ、良い、良い!いちいち買いに出んでも、ウチに腐る程あるで持って来てやるよ」

「えっ、良いっすか!?すんません、助かります~♪」

「お世話掛けますね。ありがとうございます」

「いやいや、お安い御用だよ。…君らは、何だか遠いとこにいる孫みたいだなぁ」

「お孫さん、遠くに住んでらっしゃるんですか?」

今のところ、この村で小さな子供や、若い人を見ていない気がする。

「ああ、北海道と神戸にな。滅多に会えんけど…時たま電話で話すくらいだよ。この間まで、ちっちゃい子供だったのに、話す度に驚かされてな?子供の成長なんて、あっという間だ。ワシらも歳を取るわけだよ、あははははっ」

海野は笑って話していたけれど、どこか寂しげで…ちょっぴり切なくなった。
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